ご挨拶

主査 西 竜志(岡山大)


1960年代に構築された生産システムは,その後の計算機やICT (Information and Communication Technology)IoT(Internet of Things) 関連技術の発展に伴い,急速に領域の拡大と機能の高度化を達成してきた.工場の自動化に始まり, 製品企画・設計から,FA (Factory Automation)SCM (Supply Chain Management) やロジスティクス,さらには無人ビークルを利用した柔軟な製造ラインや人間と協働するロボティクスまで拡大した生産システムの領域において,生産活動全体を最適に運用する計画を動的に生成した上で,IoTを活用して作業現場へ的確な指示をリアルタイムに伝達し,製品だけでなく生産システム自体のライフサイクルまで考慮して更なるサイバー空間とフィジカル空間を高度化した生産システムを実現する必要がある.

 近年の設計・生産活動では,新型ウイルス感染症対策や自然環境および社会環境への負荷を考慮したうえで,多様なニーズに対応する高品質で多品種の製品を,適切な時期と場所,適切なコスト,適切な量だけ生産することが求められている.さらにドイツのIndustry 4.0,ならびに日本の第5次科学技術計画である Society 5.0に代表されるように,国際的に IoTをフルに活用した新しいものづくり,および新しい製品・サービスシステムが急速に実現してきている.また,最近ではデジタルツインに代表されるように,サイバー空間上に仮想工場を構成し,さまざまな製造シナリオに対して動的に対応したサイバーフィジカル生産システムを構成して,顧客満足度向上や生産性の効率化,環境負荷の低減,リスク対応,安全性の観点から,製造シナリオの検証から,需要予測,製造製品の構成に至るまで製造作業の計画通りの実行を支援する情報技術も,多岐にわたり拡大しつつある. 今後の設計,生産,制御および通信などにおいて検討すべき課題をまとめると図1のようになると考える.

図中の垂直軸は,製品の企画・設計・開発,生産システムの開発・運用・統制,および生産システムの構成要素の開発・運用・制御に関する問題を表している.生産システ ムあるいは生産プロセスでは, ユーザの満足度を最大限に引き出す超上流デライト設計,自然環境および人間社会環境との調和を考慮した生産システム技術, 生産システム内における作業者などの人と共存,協働することができる計画・運用・統制技術が求められ る.人間中心のシステムとしては,セル生産システムが広く適用されているが,今後は人間が行うセル生産プロセスと知能化したロボティクスにより自動化された生産プロセスや人間との協調が重要になってくると考える.生産システムの構成要素,すなわち生産設備については,サイバーフィジカルの連携により,生産性,精度および品質はこれまで以上に求められるのは当然として,作業を行う人に対する親和性および協調性を考慮したデジタルトリプレットに代表される知識社会の構築が求められる.

図中の水平軸に対応するグローバル生産と地域密着型生産は,生産対象製品,生産プロセスおよび社会環境などの観点から適切に使い分ける必要があると考える.例えば, ディジタル家電,自動車などに関しては,グローバルな競争環境,サプライチェーン, ロジスティックスおよび貿易摩擦などの観点からグローバル生産が適しているが,東大阪における人工衛星プロジェクトや大田区における中小企業ネットワークなど,地域の活性化を目的としたローカルな生産も必要になると考える.

システム制御情報学会(前日本自動制御協会)では,21世紀の生産システムを目指して1980年から2021年まで,フレキシブル・オートメーション,インテリジェント・フレキシブル・オートメーション(IFA),フレキシブル・オートメーション21 (FM21),サイバネティック・フレキシブル・オートメーション(CFA),ユビキタス時代のフレキシブル・オートメーション(UFA),サステイナブル・フレキシブル・オートメーション(SFA), スマート・フレキシブル・オートメーション(SmFA)の一連の研究分科会を設け,継続してフレキシブル・オートメーション技術についての最先端技術を研究し,その具体的な応用技術の開発を目指してきた.

 本研究分科会は,これらを引き継ぎ,技術者,研究者の人的能力を結集して問題解決に向けた具体案の開発を目指そうとするものである.近年では,多品種少量生産現場をはじめとする、製造現場においてロボット導入があまり進んでいない領域にも対応可能な産業用ロボットの実現やスマート工場を中心としたスマートモビリティ, スマートロジスティクス, スマートグリッド, スマートビルディング, スマート製品との連携も視野に入れ, いかにして, サイバーフィジカル社会システムを構成するかについて検討し,サイバーフィジカル・オートメーションシステムに関する新たな知見を得ることを期待して,本研究会の名称を“サイバーフィジカル・フレキシブル・オートメーション研究会(略称 CyFA)”と称し,幅広く生産に関して知の交差を行いたいと考えている.同時に,産官学の交流の場としても成果を出せるよう,生産分野の発展のために多数の方々の参加をお願いする.特に,スマート・フレキシブル・オートメーション(SmFA)研究会の会員の方々には引き続きご参加頂くよう心よりお願いしたい.

 



1: フレキシブル・オートメーションにおいて検討すべき課題